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それがっ!? ~それがあなたのいいところ▽~

君を再定義する16の考察

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ドリルのいいところ 22/32

ドリルは、グリスを付けることによって、その回転を増す。
しかし、仕事を奪われたドリルはやがてグリスに溺れて酔っ払い、
潤滑油でベッタベタのドリルは、文字通り空回りする日々であった。
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ドリルのいいところ 23/32

ドリルは旅館の片隅に座ると、クレ556を差した。
潤滑油が回ったドリルはキュイーンと回る。
続いて、スプレーグリスを差して、また回る。
傍らの苔むした岩に向かって、己の回る先端を突き刺す。
それでも今のドリルの回転力では、
苔が剥がれるだけで、岩を貫くことはできない。

「ここには、腕のいいドリルがいると聞いたが」
「誰だ?」
「ここの客だよ」

見れば、この暑いのに黒いコートを着込み、顔に大きな傷がある、
映画の殺し屋のような男がドリルを見下ろすように立っている。

「ああ、あんたか、ここに泊まっているモグリの医者ってのは?」
「まぁ、そうだ」
「無免許医のくせに、随分吹っかけるそうじゃないか、ええ?」
「そうからむなよ。ただ俺は、手術を手伝ってくれるドリルを探していただけだ」
「ああ、工業用ドリルで良ければここにいるがね、ただし現在はご覧の通り廃業中さ」
「そうだろうな。体はボロボロ、おまけにヤケ酒ならぬヤケ油まみれのドリルなんて誰も使いたがらんだろうからな」
「なんだと!」

ドリルが今にも、無免許医師につかみかかろうとした時、
遠くから駆け寄ってくる若女将の声が2人の間を貫いた。

「あなた!」
「どうした、そうぞうしい」
「ドリ太郎が、ドリ太郎が!」

ドリルのいいところ 24/32

若女将に連れられて、ドリルが向かった先には、
木漏れ日の下で気を失っている愛息の姿があった。
「おお、木の上から落ちたにしては・・・」
妻の言葉と慌てぶりから、
最早無事な状態ではあるまいと思っていた父親だったが、
案外な様子に、ほっと溜め息を付いた。
「かすり傷だな、これは」
「かすり傷だから、マズイんだ」
振り返れば、先ほどの無免許医がドリ太郎を凝視している。
「なんだ、ウチの子が大事に到ってないのが気にいらねぇのか」
「大事に到ってるかも知れんから言ってるんだろ」
「あなた」
言葉の売り買いを制止するかのように、若女将が話に割って入った。
「すいません、先生」
「念の為、レントゲンを取って置きましょう。
この辺りに病院は・・・」


病院は、この街に一軒しか無かった。
辺鄙な山間の温泉郷である。医師は1人、病院も細やかなものであった。
診察室と処置室を兼ねた一部屋で一番険しい顔をしているのは、
誰あろう、よそ者で人相の悪い医者であった。
「見たことも無い骨格だ」
「そうでしょう」
街医者は相槌を打った。
「頭からドリル生やしているなんて、
まぁ、この子くらいなもんです」
「この頭蓋骨は鉄とカルシウム、いや、炭素だろうか・・・。
とにかく様々な物質が混ざり合って、脳が恐ろしい硬さの合金で覆われている」
「そのおかげで、この程度の怪我で済んだんですなぁ」
「この程度ですって?」
無免許医はいらだちと共に机を叩き付けた。
「確かに脳の出血はこの程度かも知れない。しかし、どのみち手術しなければ助からないんですよ」
「だったら、手術すればいい。脳を切開することぐらい、ここでも出来る」
「ならば、どうやってこの頭蓋骨に穴を開けるんです? 鉄以上の硬さを持つこれに!」
「天才外科医のあんたなら、できるだろう?」
「あんた、私を神様か何かだと勘違いしているのか? いくら私でも道具なしにオペは出来ない!」
「レーザーか何かで焼けばいいだろう!」
「こんな山奥にそんなものがあるものか!」
扉が開いた。そこには、薄汚れて欠けの目立つ親ドリルが立っている。
「先生、この手術、私に手伝わせて下さい」 

ドリルのいいところ 25/32

「手伝うって、お前さん医師免許でも持ってんのかい?」
「いいえ、私はあくまでもドリルとして、息子の手術を手伝いたいのです」
「気持ちは分かる。でも自分のナリを見てみな。そんなボロボロの体で何が」
「こう見えても、まだ体の芯は大丈夫です。
このドリル部分を削れば、お役に立てると思います」
「・・・医療用のドリルになろうっていうのか? 自分の身を削って」
「私は以前、
妻のために温泉採掘用ドリルからトンネル掘りのドリルになりました。
今度は子供のためです。どうってことはありません」
「握れるくらいに細く小さくなるまで、体を削らなければならないんだぞ」
「覚悟の上です」
無免許医は、そうか、とも言わず黙ったままでいた。街医師は、ただ呆然としている。
「先生・・・」
「何時間で戻れる」
正規の医者は何か口を挟もうとしたようだったが、その間も無く、ドリルは答えた。
「近くに腕のいい職人がいます。2時間で戻れます」
「よし!」

ドリルのいいところ 26/32

職人と言っても、その外見は単なる気のいい親父にしか見えなかった。
しかし、医師達のところへ自ら携えてきたドリルは、
確かに医療用ドリルとして申し分のない輝きを放っていた。
「素晴らしい・・・。一千万出しても惜しくない出来だ」
「それじゃ、私はこれで」
「待ってくれ、研ぎ代がまだだ」
「そんなもんいりませんや。可愛いドリ太郎の一大事なんだ」
そう言い残すと、職人はさっさとその場を後にした。
「お前さんの息子は人気もんだな」
小さなドリルは、まるで涙ぐんでいるかのように、夕暮れに光っていた。


手術は、成功した。
頭蓋の一部を開くことさえ出来れば、何てことのないオペであった。
にも関わらず、ドリ太郎が意識を回復するかしないかのうちに、
無免許医はこんなことを言い出すのであった。
「さて、手術代のことだが」

ドリルのいいところ 27/32

「はぁ」
「はぁ、じゃないよお前さん。仮にもこの私が執刀したんだ。
まさかタダだと思ってだんじゃあるまいね」
「いえ、そうじゃないんですが」
「そうだろう。まぁ、奥さんに頼むしかないと考えていたんだが」
「いや、それは先生、勘弁して下さい。
先生の手術代は、お高いのでしょう」
「安くはないね」
「家内は旅館の女将なんで、手術代が圧し掛かると」
「そうだなぁ。
せっかく建て直した旅館が、また傾くかも知れないねぇ」
「ええ、ですから、手術代が払い終えるまで、
先生のところで働かしてはもらえないかと」
「確かにお前さんは、一千万の価値があるドリルだ」
「なら!」
「でも、私はお前さんを必要としていない。
あんな硬い頭蓋骨を掘るなんて、一生でこれっきりだろうからな」
「・・・失礼します」
「待て待て。話は最後まで聞くもんだ。
私は必要としなくても、他にドリルを欲しがっている医者がいる」
「誰ですか?」
「歯医者だよ。新進気鋭の若手歯科医だ。
以前からずっと腕の良いドリルを探しているんだ。
紹介状を書いてやるから、そこで働くといい」
「いいんですか!」
「給料は折半。半分は私が預かる。それでいいな?」
「はい!」

ドリルのいいところ 28/32

今は医療用ドリルとなった一児の父は、
住みなれた温泉郷から遠く離れた都会へとやって来た。
行き交う人は余りにも多く、
歩き出すドリルに目を向ける人は誰もいない。
そんな雑踏をかき分けて、天才無免許医の紹介状が示す場所に至ると、
そこには「田宮歯科医院」という真新しい看板が掲げられていた。


受付の人は驚いていたものの、当の歯科医は特に動揺した趣も無く、
「田宮麗子です」
と簡単に挨拶だけ済ますと、さっそく仕事の説明を始めた。
見渡すと、物言わぬ仲間達が鈍い輝きをたたえながら眠っている。
「・・・ですから、私はあの無免許の名医先生に申し上げたんです。
どうしても患者さんはあのドリルの音を嫌がるから、
音を出さないドリルはいないですか、と」
「いや、それは無理な相談です。
あのドリルの『キュイーン!』は、我々の叫びであり、誇りなんです」
「だけどあなたは、一千万の価値があるドリルなんでしょう?」
「それでも、音を出さないなんてことは私にはできません。
田宮先生。
何故患者さんは『キュイーン!』を嫌がると思いますか?」
「とにかく、怖いんでしょう」
「違いますよ。
失礼ですけど、結局、それはお医者とドリルの腕が悪いからです。
私なら・・・」
「私なら?」
「恐怖や痛みを感じる前に削り終えることができます」

ドリルのいいところ 29/32

ドリルの言ったことに嘘は無かった。
彼の駆動音が発せられるや、いつのまにか病巣は削り取られ、
それ以降は寡黙を保ったままで良かったからだ。
歯科医も一千万のドリルに恥じない腕を惜しげなく振るい、
田宮歯科医院はいつしか、
良い歯医者にめぐり合うという得難い幸福を求める人々が、
次第に列を成すようになった。
かくして、この病院は繁盛をする。
ドリルの給料は次々と上乗せされ、
その度に50%が無免許医の元に振り込まれる。

時と共に変わっていったのは給金のみではなかった。
明らかに、田宮医師の態度が冷たくなりだしたのである。

ドリルのいいところ 30/32

一千万円のドリルが、田宮医院に元々あったドリル達を磨き上げている。
磨かれている彼らは物を言うことこそ無かったが、
その輝きは明らかに以前と異なっていた。
単身赴任の夜である。
妻子を思い、郷愁に駆られることも少なくはなかった。
そんな時は、無心に器具の手入れをする。
打ち込んでいる間は、あらゆる悩みを忘れられた。
悩みと言えば。
田宮医師の態度の変化が、仕事に支障を来たすようになって来ている。
歯科医とドリル間の意志の疎通が何より大事なことであるはずなのに、
彼女は時折、ドリルの話を無視して勝手な処置を取るようになっていた。
幸い、田宮の腕が良いおかげで、患者には悟られてはいない。
しかし、大事に至る前に何とかしなければならない。
窓の町明かりを見ながら、ぼんやりそんなことを考えていると、
診療室のドアが開いて、人影が入ってきた。
「まだお仕事を?」
「田宮先生、こんな時間にどうしたんですか?」
「少し、よろしいですか?」

ドリルのいいところ 31/32

(2006.9.14追記:投票は無事終了しました


※管理者より皆様へ※

1人夜の闇に消え去ったドリル。
彼の行く末、そしてこの物語の終焉に際し、
私は2つの結末をご用意しました。

そして、そのいずれかを決めるのは、今ご覧の皆様です。
どうぞ、右上の投票システムよりご投票頂き、
皆様方の手でドリルの未来を決定して下さい。

期限は2006年9月13日いっぱい。


皆様、よろしくお願い致します。



なお、投票数が少なすぎる場合は

ドリルのいいところ 32/32 (最終回)

「ありがとうございました」
小松雪乃は従業員と共に、深々とお見送りの挨拶をする。
温泉で身も心も温かく清まった人々は、心尽くしの礼を携えて帰路に着く。
いつもの朝が始まり、今やこの温泉街の名物女将となった雪乃は、
忙しくも凛とした佇まいを崩さず、今日も旅館を切り盛りしている。
彼女は一児の母で、その男の子の名はドリ太郎という。
親類や知人は何度も改名を勧めたが、彼女は、
「あの人との子供ですから」
と考えを改めるつもりは断固として無い。
その『あの人』は子供の治療費を稼ぐと単身都会に出たまま、
長い間音信不通となっていた。
だからこそ彼女は、この地で働き続けた。
夫が帰る日のことを信じて、帰るべき場所を守り続けている。
雪乃が地元で名が知られているのは、
風変わりな家族構成のためなどでは無い。
その気持ちの健気さと手腕の確かさによって、
小松雪乃の名は輝いているのである。
女将は本日分の予約名簿を開いた。
そこには、懐かしい人物の名が記されていた。

雪のいいところ 2/32

南国の人は、見たらテンションが上がる。

雪のいいところ 3/32

積雪に野菜とか入れると、光熱費ゼロの冷蔵庫になる。

雪のいいところ 4/32

久しぶりに雪合戦やりたい。

雪のいいところ 6/32

雪だるまを描いてみました。

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プロフィール


Author:タカヤマ

九州在住。

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